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太陽が咲いた

第1章 たんぽぽ


  ガーデアの森を月明かりが照らしていた。フクロウの鳴き声と夜風が森の中を巡り、生き物という生き物が朝の来るときをひっそりと待っていた。そんな物寂しい森に1階建ての家があった。木で作られた家の側には、夜闇に染められた小川が流れ、家の中にはランプの光すら灯っていない。
 家の主であるディートリヒは、寝室で月明かりだけを頼りに本を読んでいた。彼が体を少し動かすと、背をもたれている椅子がぎしりと鳴った。
 彼の金色の髪を照らしている月がゆっくりと雲に隠され始めたとき、ディートリヒは本を閉じ顔を上げる。

「そろそろ起きてくる時間か……」

 椅子から立ち上がると、ディートリヒは本を机の上に置き、床に敷かれていた絨毯をめくりあげる。そこに隠されていた扉を上に引き上げると、地下へと続く階段が現れた。
 彼が階段に足を踏み入れていくと、それに合わせて壁に取り付けられたランプに火が灯っていく。
 数十秒後、地下へと下り立ったディートリヒは通路の先にある扉を開けると、研究室に入った。彼の入室とともに壁際のランプが灯るが、それでも部屋全体が仄暗いことに変わりはない。

 部屋の奥にある暖炉の中に一つのフラスコが置かれていた。大人が両手で包み込んでもはみ出す大きさのフラスコの前に立ったディートリヒはしゃがみ込み、ガラスの中を覗き込む。

「まだ寝ているのか、エルフィ」

 彼がそう呼びかけると、フラスコの中で横たわっていた【少女】が目を開け、宝石のように赤い瞳をゆっくり瞬かせる。

「……おはよう、ディートリヒ」

 やわらかな声で挨拶した彼女に、ディートリヒは小さく笑みを返した。
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