第5章 嘘つきは大嫌い【今吉翔一】
維side───────────---
声が届かない。
静寂の中のエレベーターも、
沈黙の中の歩幅も、
全部、夢みたいだ。
『先生・・・っ』
もう、声にもなってない。
涙ばかりが溢れ出して、本当の気持ちを見つけられない。
私は、どうしたいの?
どうすればいいの?
・・・こんなに、好きだなんて。
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先生の・・・香り?
・・・先生の香り。
ふわっと香ったかと思えば、苦しいほどの抱擁。
身体中が先生の香りになって。
今が、一番しあわせだ。
「・・・あのな、柚井」
耳元に降るその声は。
教卓の向こう側。
人と人の向こう側。
何かの、向こう側。
そこから聞こえていた筈なのに。
今は────、
「・・・好きやで」
息遣いも分かるほど近くにある。
『・・・っ遅い・・・遅いわ、馬鹿・・・』
「あぁ」
『私、ずっと・・・っ』
「あぁ」
『あなたのことしか・・・っ』
その先の言葉は。
先生に、呑み込まれた。
噛みつくように苦しいキス。
どうしてそんなに・・・
『ん・・・・・・、っむ・・・』
あぁ・・・ダメだ、もう・・・
───何も、考えたくない。
「・・・柚井・・・、あのな」
『っん・・・なに・・・』
ゆっくりと回される腕。
その腕が、優しくて。
その腕が、熱すぎて。
・・・溶けそう、って。
────こういうこと、なのか。
『・・・っ! いっ・・・』
耳朶が熱く燃える。
もう、嫌だ。おかしくなる。
・・・どうしても、逃げられない。
「───俺には、お前だけや」
─────俺?
『せ、んせい・・・今──っん』
熱が交わるキス。
「・・・アカンな」
先生の熱が、熱すぎて。
「・・・ニヤけてまうわ」
こっちまで───。