第4章 出逢うことの無かったふたり【火神 大我】
火神side─────────────---
・・・ずっと、誰かを・・・探している。
《───ロサンゼルス行き、9:30発・・・》
ゆっくりと立ち上がり、ふと、窓に近づいた。
真っ青な空に浮かぶ、薄い月。
何故だか俺は、この月の名前を知っている。
「・・・有明月だ」
『・・・有明月だ』
───────・・・、
「っ!」
『っ!?』
ずっと、誰かを────
《────覚えて、ない?》
────探していた。
「・・・」
『・・・っ』
気まずくなって、目を逸らす。
もう行かなくちゃいけねぇのに、
頭の中には言葉が浮かんでくる。
《あなたこそ誰よ》
「っ!」
《シティライフ万歳》
「っ・・・」
《絶対、私はあなたを見捨てない》
「!」
《大丈夫だから》
心臓が、鷲掴みにされたみてぇだ。
全身の血がやっと通い始めたみてぇな。
『っ・・・』
なにか言おうとしてるのに、なにも言えないでいる女。
そしてそのまま、立ち去ろうとする。
「───待てよ、維」
『───!』
弾けたように振り向いた維は、
ゆっくりと体を向ける。
忘れた、なんて言わせねぇ。
誰だよ、なんて言わせない。
・・・覚えてる。
そう確信していた。
『・・・火神・・・?』
「・・・あぁ」
ゆっくりと距離がなくなる。
『・・・火神、が・・・居る・・・!』
「おう」
トン、ともたれ掛かる頭。
心臓の音が聞こえちまいそうだった。
『・・・私、っ』
「・・・言わなくていい。俺も一緒だから」
────忘れててごめん────
涙で濡れる頬。
涙声も、この喧騒の中では掻き消される。
なのに、俺の耳には一番大きく届いていた。
『・・・火神────っ!』
「・・・好きだ、維」
頬を触ったせいで手が濡れる。
初めてのキスは、しょっぱかった。
『────私もっ!』
そう笑う維は、きっと誰よりも輝いてる。
「・・・迎えに来るからな」
そんときは、一緒に向こうに住もう。
『・・・目移りしないでよ?』
お前こそな。
絶対、迎えに来る。
それまで、待ってろ。
【終】