第20章 (日+黒日)敗者の道 (捏造戦国)
「お前」
黒い男に声をかけられ、私は視線で答えた。
「何故そう遠くにいるのです。此方へ」
「………」
誰がのこのこ従うというのだろう。私は無言で拒否を示す。
菊が心配そうに私たちを見守っていて、何かされるのならば彼に助けを求めようと思った。
「来いと言っているのが聞こえぬか」
男は自分の隣を手で示し、睨んできた。
そのうち無理矢理にでも引き倒されそうだと思った私は、渋々腰を上げて近付く。
「っ!」
すぐ前まで来た時突然腕を引かれて、私は男の上に倒れ込んだ。慌てて離れようとするも、背中と首を押さえられ動けなくなる。
思わず身体を引いた。獣のような目をした彼にこそ血の匂いが似合いそうなものなのに、夜の草の匂いがして、私は震えて息を吐いた。
温かい人の体温。
「今夜、向かいにある私の天幕に来なさい」
「………」
震えて。
艶のある囁き声に、ああ、行けば私はこの男に犯されるのだと確信した。
私をここに連れて来た菊は、この黒い男のお相手を一人連れて来るのが仕事なのだろう。私は見初められてしまったというわけか。
菊のあまりに優しい声を聞いていたせいで油断していた。
ここは戦場、私たちは敗者なのだ。
反応もなく言葉も無い私をどう捉えたのか、男の腕が強く私を抱きしめる。首筋に顔を埋められる。
まあむさ苦しい年のいった男より大分マシか、と思い、私は私を諦めた。
その時。