第19章 (黒日)鳥居の宵
「いえ。…待っていると言えば待っているんでしょうね、私は」
「?」
「姿は見かけるのですが、なかなか逢う事が出来なくて…でも、もういいのです」
首を傾げた私を見て彼は笑う。至極嬉しそうに、楽しそうに、艶やかに美しく笑って。
「今日、やっとお逢いできましたから」
言って私の手を取ると、まるで紳士のように身体を折り礼をした。
「…え、」
「やっと触れる事が出来て私は嬉しい。貴女の魂、頂きます」
目を見張る私の手に唇を寄せた彼は、私の指をなぞり、あの美しい笑顔で笑った。
2014/
(補足。この中で菊が言う「逢う」とは、ただすれ違って姿を見る事ではなくきちんと向かい合って挨拶を交わす事を言っています。そして時間をかけて自分の存在を知らせ、無意識に意識させるようにして拐かそうとする算段です。
人間ではない存在、魂を喰う妖怪をイメージしていました。)