第14章 (日)鬼ごっこ
菊は、少し眉を寄せて寂しそうな顔をした。そのまま言葉はこぼれずに、風だけが騒ぐ。
「嘘だよ」と言うのを待つような静寂、でも私の唇がもう開かないのを悟って。
「…そう……ですか…」
項垂れる。
嗚呼、ガラスの扉、どうか曇って。罪悪感で胸が痛い。
「ごめん。菊の事、友達としてなら大好きなんだけど…」
「…そうですか」
菊は俯いてしまった。泣くかな。いや、男だし泣きはしないかもしれないけど。
少し心配で眺めていると、菊は口元に手を当てて暫く地面を見つめた後に、ぱっと顔を上げた。
「私の事、嫌ってはいませんね?」
「へ?え、あ、…うん」
その顔があまりにも凹んでいなさすぎて逆に私が驚いた。一瞬あんなに泣きそうな顔してたのに、まるで人が変わったよう。
私の菊のイメージだったら、唇噛んで泣くのを我慢しながら「これからも良いお友達で」とか言われてそういう展開を予想してたんだけど。
「嫌っていないならまだ希望はありますね!二次元ならこのくらいの結果は案外セオリーなものです、むしろここがスタートと言っても過言ではありません。ここからたくさんのイベントを経て見事に璃々さんの心を射止めれば…いやしかしどうやって。生半可なイベントでは鼻であしらいそうですしね。何か意表をつくような作戦で…」
何やら菊はぶつぶつ呟き思案し始めた。
ぽかんとしているのはもはや私。一体何を言っているんだ彼は。
すると私の視線に気付いた菊は慌てて微笑んだ。
「あぁ、申し訳ありません。私これでも諦めは悪い方でして」
「…え」
「私、貴女が大好きなんです。顔も見たくないと罵られるまで嫌われない限りは諦めませんから。…時に璃々さん、一つご提案なのですが」
「あっはい!何でしょう」
もはや完全に菊のペースだ。
私の中の菊像は揺らぎ始めた。こんなに饒舌に話す彼は滅多に見ない。
私の、中の菊は。
こんなに饒舌に話さない。
菊はにっこり笑った。
「私と鬼ごっこしません?」
「鬼ごっこ?って…」
「ええ。私が鬼で、貴女を追いかけますから。もし私が貴女を捕まえたら、お友達からお付き合い頂くという条件で…いかがでしょうか」
菊は綺麗な笑顔で私に言った。