第12章 (闇日)かごめ (戦争、血、暴力表現有)
「璃々!!」
だんだんと近づいてきている大好きな声が、すぐ近くで響いた。私は思わず微笑む。
そう、そうだ、何か聞いた声だと思ったら、菊の声に似てるのだ。
神様は優しい。声まで私の耳に届けてくれた。
私は声の主にお礼を言いたかった。
ありがとう、と言いたくて。
声の主を見ようと力を振り絞り相手を見て。
目を見開いた。
「………っ!」
「璃々…おまえ、こんな……っ!」
菊、だ。
菊だ。菊だ菊だ菊だ菊だ菊だ。
菊だ!!!!
信じられない。間違いなく菊がそこにいる。
神様が奇跡を起こしてくれたのだろうか。私は嬉しくて死ぬかもしれない。涙が溢れた。
今まで張り詰めていた緊張が溶けて、もういっそ今なら死んでもいいと感じた。
いつも新品のように綺麗で真っ黒な軍服は返り血を浴びて赤黒く染まり、菊らしくもなく乱れて、整った髪は手櫛もかけずばさばさ。
必死の顔。必死で私を探しに、助けに来てくれた。
それだけで私は、今まで生きていた甲斐があった。
菊は私を見て、傷ついたような表情で呆然とした。
しかしそれは一瞬で、みるみるうちに憎しみと怒りで美しい顔は歪み、地を這うように唸り。
「許さぬ!!」
吠えて、振り向き様に真っ赤な刀を奮う。紅い華が散る。
そんなに乱暴に扱ったら、刀が駄目になってしまうと、思って。
「鬼神の怒り其の身に刻むがいい!貴様等皆地獄へと落としてやろうぞ!」
菊の怒号。あんなに声を荒げるなんて、珍しい。
ふ、と微笑みが漏れて、私の視界は暗転した。