第10章 (日)月の魚
ぱしゃん、と庭で水音がした。
夜中、なかなか寝付けずに布団で寝返りを打っていた私は、その音にうっすら目を開けた。
(…寝れない)
理由はわからないが寝られない。目を閉じても全く睡魔がやってこない。
昼寝をしたわけでもコーヒーを飲んだりしたわけでもないのに、やたらと目が冴えて仕方なかった。
それよりも、先程の水音は何だろうか。私は身体を持ち上げる。
こんな時は布団でゴロゴロするよりも少し気分転換した方がいいのだ、と理由をつけて、立ち上がった。
襖を開けて縁側に出ると、ひんやりした空気が身体を包んだ。辺りは物音ひとつせず、ただ風の音が心地よく鼓膜を揺らす静寂。
昼間はあんなに暖かいのに、と思いながら、音の正体を探る。
水音という事は池からだろう。あそこに魚がいるなんて聞いた事ないけど。
少し待って池を見つめてみたけれど何も起こらない。でも確かに水面は揺れていた。
躊躇って、私は縁側に腰かけて。
魚が本当にいる確信なんて無いのに、一目見ようと池を見つめる。
ぼんやりと池を眺めて水面の煌めきを追う。月は既に中天に昇り、池には反射した光のみが揺らめいていた。
月が池に映っていたら綺麗だったのに、と少し残念がりながら、ゆっくりと瞬きをした。
菊はもう寝ただろうか。時計を見なかったから、今が何時なのかわからない。
まだ日付が変わってすぐかもしれないし、3時とか4時とかかもしれない。
「まぁ、どっちでもいいや」
縁側の木の柔らかさ。優しく包む夜風。月の光。草の葉擦れの音。
気持ちが良くて、私は瞳を閉じる。
あぁ、何だか溶けてしまいそうだ。月の光も、草の音も、水面の光も、私と一緒にひとつになったような。
心地いい。