第4章 (日)食欲願望腹の底(オタク菊)
家に帰ると、菊が沈んだ顔をしていた。
居間に入って「ただいま」と口を開きかけた瞬間、正座でしょんぼりしている菊が目の前にいて、出鼻を挫かれた気分。
菊は入ってきた私を横目で捉えた。
「…あぁ、お帰りなさい」
「ただいま…どうしたの菊?」
しょんぼり菊の顔があまりに綺麗なので正直もう少し眺めていたかったが、それも可哀想だと尋ねてみる。
すると彼は泣きそうな顔をした。
「聞いてくださいよ璃々さん…」
「うん」
「エリザさんとルートさんとフェリさんにも頼んでまで応募したイベントのチケットの抽選が落ちてしまったんですよ!」
「うん」
「はぁ…私今までそれだけを希望に生きてきたというのに、これからどうすればいいんでしょう…」
「うん…うん?それだけ?」
「それだけとは何ですか!私がどれだけこれを楽しみにしていたか知ってますか!?着物の骨董市よりも御歳暮の塩じゃけよりも楽しみにしていたんですよ!それなのに…嗚呼…!」
「嗚呼ってこっちのセリフなんだけど」
心配して損した。私は肩を落として、荷物を床に置く。
「いいじゃん、落ちちゃったものは仕方ないしさ」
「無理です。そんな簡単に割り切れるものですか!3度の飯より楽しみだったのに…もう、死ぬしかないです!」
「は!?」
下ろそうとした鞄が床に落ちる。
驚く私の目の前で、菊ははじかれたように立ち上がると窓へ駆けた。
私は慌てて追いかける。
「ちょ!菊なにやってんの!」
「止めないでください璃々さん!もう楽しみがないんです、楽しみがないなら生きていたって仕方ないんです!」
「だからってなんでその結論に行くのよ!菊が死んだら今日の夕飯どうするの!」
「嗚呼璃々さんもそうなのですね。夕飯でしか私を必要としてくれてないんですね、私を飯製造機だと思ってるんですねそうなんですね!2次元にも璃々さんにも見捨てられた今、私に希望なんてないです。死にます!」
「あぁああちょっ今のは言葉のあや…!」
窓枠に足をかけて今にも飛びおりようとする菊に私は必死にしがみつく。
着物がめくれて顕になった菊の足は白い。どんだけ外出てないんだこの人。