第1章 いつもの朝
梅雨も明けた頃の夏涼しい朝。
今日も春日山城からは、声の限りに叫ぶ少女の声がきこえる。
「かすが姐様!このあすか、稽古をつけてくださっている姐様に、感謝しています!」
16歳程の少女がかすがに叫ぶ。と同時に木刀を構えなおし、かすがの懐を目指す。
「ぬるいっ!」
かすがは横に垂れる金髪をなびかせ、華麗に避ける。
勢いのつき過ぎたあすかは、止まることができずに転んでしまった。
「くうっ、かすが姐様。さすがでございます」
そう言うと、悔しそうに起き上が
ったあすかは、まだまだ!とばかりに木刀を構え直す。
「あすか!貴様!戦闘の稽古ばかりではダメだ。貴様は体力をつける必要があると何度言えばわかるんだ!一回頭を冷やせ‼︎」
かすがはその言葉を言うや否や、あすかを蹴り飛ばし、稽古場内にある池に落とした。
「ぷはっ!ごほ!げほ!かすが姐様、すみません。では、今から!」
池から出ようと岸に手をかける。…が、
「この、たわけが!」
またしてもかすがの手によって池に落とされるあすか。一体、何事だ?とでも言うようにあすかは眉をしかめた。
私は姐様の言う通りに…
「ふんっ!その調子では、何故自分がまた池に落とされたか…分かっていないようだな。」
「へ??」間抜けな声が出た。
「朝の稽古はここまでだ。これからやらなければならないのは…」「謙信様の朝餉の用意!」
あすかはかすがの言葉を繋げた。
かすがはフンっと、鼻を鳴らす。ついでに、あすかに強烈な拳をおみまいした。
おー、いかんいかん。主の朝餉を忘れるとは、とんだ恥知らずになるところだった。…もうなってしまったがな。
「大変申し訳ございません!かすが姐様!」
「急げあすか」
「はい!謙信様に素晴らしい朝餉を!」
返事だけは一丁前のあすかは、かすがの言葉に頷く。
少しだけ涼しい夏の朝は、稽古して上がった体温を下げるのにぴったりだった。まだ登り始めで全貌が見えない太陽を背に、あすかとかすがは、春日山城の厨房を目指す。