第4章 前夜
「羽音さん、明日よろしくお願いします」
天童が満足いくまで検査して、赤葦と羽音は共に部屋を出た。
明日のオペは朝一でスタートする。
少し早めに出勤しようかなと考えていた所だった。
循環器病棟のスタッフステーションでは、木兎がパソコン画面に向かって仕事をしている姿が見える。
こちらに気づいて、カウンター越しに近づいて来た木兎はポケットからチョコレートを一つ差し出してくれた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
遠慮なくいただいたチョコをバッグにしまい込んだ羽音。
「赤葦、それ調子どう?」
機材を示しながら嬉しそうな顔をする。
「いい感じです。天童も喜んでましたよ」
「やっぱり~、俺最強だな」
言っている意味はよく分からなかったが2人とも嬉しそうであった。
「この機材、本当は高すぎて上からは待ったがかかってたんですよ」
赤葦が歩き出しながら、話を始めた。
羽音もその話を聞きながらバックヤードへ一緒に歩く。
「明日のオペ患者、特別な人で、木兎先生が執刀する代わりにって院長に頼み込んだんです」
クスクスと笑う赤葦は今まで見た中で一番楽しそうだった。
「明日の…とても珍しくて難しいオペじゃないですか?あんなの喜んで執刀するの関東周辺探しても木兎先生位しかいないのに、院長先生が木兎先生の口車に乗せられてたから面白かったです」
「でも、その入れ知恵したの赤葦さんでしょ?」
羽音に痛いところをつかれて赤葦わ苦笑いを浮かべた。
さすが牛島先生の彼女だ、鋭い。
天然ボケの入った木兎先生の彼女とは一味違うなと感じた瞬間だった。
「牛島先生になら時々貸してあげてもいですよ」
新しい機材を収納しながら赤葦は羽音にウインクして見せた。
「私もいざという時の切り札に取っておきます。その貴重な機材」
2人で笑っていると赤葦のPHSが鳴り響く。
木兎からの呼び出しのようだ。
明日の挨拶を再度交わして羽音は病院を後にした。