第1章 執刀後の情事
手術開始15分前、看護師の山形が患者を乗せたベッドを押して入室してくる。
手術室内の雰囲気が変わる瞬間。
牛島先生はサウスポーなため、彼の手術の形態は普段の手術室とは真逆になる。
これも彼流。
エース様の手術には、皆が従う。これが法則である。
患者が手術台へ移ると、テキパキと進めていくのは白布先生で、牛島先生の入室ピッタリに準備が整う。
手術開始3分前、ギャラリーの数はいつの間にか増えていた。
ゴクリと息を飲み込むと、凛々しい彼が助手の瀬見先生と研修医の五色先生を引き連れて入室してくる。
再び手術室内の雰囲気が変わる。
「あれは、研修医ですか?」
そんな密やかな声も耳にはいる。
確かに五色先生は研修医だが、牛島先生が側に置いているだけある。天才ルーキーと言うのだろうか、彼の腕は本物だ。
手術が開始し、1時間ほどした頃。
「さすが、牛島くん。今日も最高だね~」
背後から明るい声が聞こえ振り返れば、そこにいたのは心臓血管外科医の木兎先生と放射線技師の赤葦さん。
「俺でも惚れるわ」
意味深な視線を私に送る木兎先生は、私と牛島先生の関係を知っているうちの一人。
「ところで、羽音ちゃん?今度俺のオペに入りません?」
背後から前のめりで囁く木兎先生をチラリと睨む。
「当番でしたら入らせてもらいますね」
チーム牛島のように特別編成されたもの以外の手術は全て当番制。
もちろん、ここにいる木兎先生も特別チームの編成を許される一人であり、人選は彼の自由。つまり彼に選ばれない限り当番は回ってこないのだ。
「羽音さん、今度のオペ絶対面白いですよ」
木兎先生の背後から、赤葦君も声を掛けてきた。
その興味深げな手術内容の書かれた用紙を手渡される。
確かに興味をひかれる内容だ。
「なっ?どうせ、あのチームには入れねぇんだから1回くらい手伝って」
「考えておきます」
私の返事に満足そうな笑顔を見せる木兎先生は、私の後ろの席に腰を下ろした。
そうしている間にも牛島先生の手術は順調に進んでいく。
背後でブツブツ喋っていた木兎先生も途中で退室し、結局最初から最後まで見ていたのは自分だけだったなと思いながら、最後の一縫いを見守る。
今日の手術は華麗…その一言だ。