第3章 輪の中へ
なお目線
あれからまた数日が経った。
身体は元に戻り、もしかしたら今までで1番元気なんじゃない?って思うくらい。
「なお様」
外から声がかかる。
『秋野さんだ!』
あの日、散々に泣き叫び、暖かいぬくもりを感じながら眠りについてから、私は一度も泣いていない。
泣かないどころか、秋野さんが大好きになって、何かを補うかの様に甘えているのが自分でも分かる。
「おはようございます。なお様」
「おはよう。秋野さん」
私は言うが否や秋野さんに抱きつく。
秋野さんは嫌がる事もせず、頭をそっと撫でてくれる。
その暖かさと別に、厳しさが飛んでくる。
「なお様!私の事は〈秋野〉と!」
「うっ。ごめんなさい。秋野?」
説明されて分かってはいるけれど、なかなか呼び捨てが出来ない。
「なお様のお優しい所だとは分かっておりますが、そこの分別はつけて頂きますよ。」
優しい声色に変わった秋野。
「ごめんなさい。秋野」
私は素直に謝った。
「ふふっ。では、なお様。今日はお着替えを致しましょう。もう、褥から出ても良いと家康様にお許しを頂きました。」
そう言うと秋野は衣桁に掛けてある着物を手に取った。
濃紺から少しずつグラデーションがかかり、所々に色鮮やかな華や蝶が舞っている。
「綺麗……」
「信長様がご準備してくださったのですよ」
そう言うと秋野は着付けを始めた。
着物なんか浴衣位しか着たことなくて、されるがままの私。
「着付けもお教え致しますから、そんなに不安そうな顔をなさらなくても大丈夫ですよ」
私の心を読んだかの様に秋野は私の顔を見る。
少し恥ずかしくて、ついぷいと横を向いてしまう。
そんな事気にも止めず、秋野は話を続ける。
「知らない事は知っていけば良いのです。知らない事を隠し、失敗する方が恥ずかしいのですよ」
「……はい」
私は少し間を置いて返事をする。
「素直な事も素敵な事ですよ。」
私は自分でも自覚するくらい今顔が赤いだろう。
でも
『そんな自分も悪くないな』
とかすかに思った。