第12章 スタマイ小話
怜が風呂に入って、俺はベランダでいつものように煙草に火をつけ、街の灯りをぼんやりと見つめていた。
口から出る白い煙は、俺の感情を表すようにフワフワと曖昧な形を作り、一瞬で消えていく。
関「…ふぅ」
帰宅して怜の笑顔を見たら疲れはとっくに吹っ飛んだ。でも俺はどこか寂しさを感じていた。
怜「関さん、そろそろ冷えますよー」
関「ああ、ここにもう1本あるんだけど」
空けてない缶ビールを見せると、お風呂から上がった怜はへらっと笑って俺の隣に並んだ。
怜「今日は…何かあったんですか?」
関「え?どうして?」
怜「その…煙草の数が多い…なぁって」
何本もの吸殻が入った灰皿を見て、怜は少し躊躇いがちに言った。彼女は妙にこういう事には鋭いのだ。
関「…別に、何でもないよ」
怜「またそうやってうやむやに…」
すねたように頬を膨らませるその顔に、思わず自分の頬が緩むのが分かった。
関(たまには少しくらい…甘えてもいいか)
関「そうだな、少し口寂しくなってな」
怜「…へ?」
俺の予想外の答えに怜の口から抜けた声が出た。そんな反応も可愛くて、俺の悪戯心に少し火がついた。
関「だから煙草以外で俺の口を満足させてくれるものがあればなあ…」
怜「そ…それは…」
みるみる赤くなる俺の恋人は、その暑さを誤魔化すようにビールを飲んだ。動揺してるのが分かってつい笑いが零れる。すると怜の視線がこちらを向いたと思うと───
怜「っん」
関「!」
不器用に背伸びをして重なった唇は、俺の煙草と怜のビールの味がした。一瞬の触れ合いの後、先程よりも赤くなった怜は、照れながら言った。
怜「煙草より満足させられるか分かりませんが…健康にはこっちの方がいいです!!」
関「…ふっ」
妙な言い訳を言う怜が可愛くて理性をなんとか保ち、俺は怜の頬に手を当てて呟いた。
関「怜のキス以上に…俺を満足させられるものなんてない」
関(煙草の本数分…いやそれ以上のキスじゃないと満足出来ないな)
俺は最後の煙草を灰皿に押し付けた。