第18章 ep18 景色
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まだまだ寒空の下、及川とりこは並んで歩いた。
冷たい夜風が、泣き腫らした目を冷やして心地いい。
及川の首元には、2月14日にりこが貸したマフラーが巻いてある。
「及川くん、あのね・・・」
「と、お、る、くんでしょー?あの時はさらっと呼んでくれたのに何でまた戻っちゃうのさ」
唇を尖らせてぷんぷん怒る及川。
その子供っぽい態度に、りこはくすりと笑った。
「でも・・・他の女の子はみんな、及川くんとか、及川先輩って呼んでるし・・・」
「他の子はいいの!でも、俺はりこには名前で呼ばれたいんだよ!」
きょとん、と首を傾げるりこ。
「りこは、その、他の子とは違うんだよ・・・」
言って恥ずかしそうに頬を赤らめる及川。
さっきまであんな自信満々に、
同じ景色を見よう
なんて言っていたのに。
階段に差し掛かり、及川が一段降りた所で、あーもうっとため息をつき、りこを振り返った。
丁度視線が同じ高さになり、見つめ合う。
「マネージャーになったら、勿論、岩ちゃんや他のチームメイトとも話してほしい。りこはバレーが上手いから、外から見てて気になること、沢山アドバイスして欲しい。勿論俺にもね、でも・・・」
すっと及川の手が、頬に触れる。
もう片方の手は、りこの華奢な左手を掴んで・・・
「触れさせるのは、俺だけにして。言い寄られても、俺を理由に、断って。俺がりこを想うのが当たり前で、りこが俺を想うのも当たり前だって・・・さだめたい」
左手を掴む手に力がこもる。
「俺と、付き合ってほしい」
やっと言ってくれた、とりこは思った・・・。
互いに思いあってはいたが、進まなかった関係。
きっと彼は、自分が全てを話すまで待っていたんだと思う。
私もやっと言えた、過去をすべて・・・
全部ひっくるめて自分を包み込んでくれる彼を、
りこも大切にしたいと思った。
「うん、宜しくお願いします・・・」
交わしたキスは、愛に溢れていた・・・