第29章 ep29 前進
先生が呼び出してくれたのは、りこの前の高校のすぐ近くの喫茶店。
そこで先生は、相変わらず大きな体に大きな口で笑ってりこを待っていた。
先に飲み物、2人ともアイスコーヒーを注文し飲み物が来るのを待ちながら先生は口を開いた。
「あっちの生活には慣れたか?」
「はい、元々地元だったので、すぐに慣れました」
「そうか。まぁ住み慣れた場所はいつになってもええな。お父ちゃんもお母ちゃんも、元気にしてんのか?」
さり気なく、自分の近況を聞いてくれる優しい声。
ま、いざ練習になると鬼のように怖いけれど・・・
「はい。元気でやってます」
「そうか。あん時挨拶きた時は、2人とも随分やつれてたからな」
「そう、ですね、あの当時は、私も急に・・・挨拶も出来なくてすみませんでした」
深く頭を垂れる。
いや、ええよ、といつもの調子で話してくれる。
「実は両親からは全部聞いとった。それに、今こうしてもう1回顔見れたから、チャラにしといたるわ」
顔を上げると、懐かしい、大好きな笑顔。
おおらかな人柄を現している。
「はい、本当にすみませんでした」
「体は大丈夫なんか?」
頼んだアイスコーヒーをストローで混ぜながら会話する。
「はい、その、流れちゃったので子供はいないんですけど・・・・・・近くの青葉城西高校に今は通っています」
あぁ、青城な・・・と、先生は顎のヒゲを触る。
「ご存知ですか?」
「おん。あっこは全国には出てへんけどええ選手がおるな。セッターが安定してるし、あそこまでの選手は関西でもそうおらんな」
驚いた、監督が青城の存在を、ましてや及川の実力を認めていることに。
「はい。人並みの感想ですけど、みんな凄いです。私は、男子バレーのマネージャーをしています」
「マネージャーな」
「ここでは先生にも、みんなにも迷惑かけてしまって、自分への戒めとしてバレーは辞めようと思ったんですけど、やっぱり捨てきれなくて・・・」
申し訳ないとか、言いたい気持ちがあるが、それは何だか違う気がする。
先生の次の言葉を待って、ちらりと見上げた。