第29章 ep29 前進
タタン・・・タタン・・・
真昼間の静かな揺れが眠気を誘う。
膝に乗せた宮城の手土産がずり落ちそうになった所で、はっと顔を上げてりこはそれを持ち直す。
《まもなく、新大阪、新大阪に到着致します。お忘れ物にご注意ください》
懐かしい駅名と、今回の目的の場所。
りこは下車する準備をした。
(いよいよだ・・・・・・)
ーーー・・・
「監督、ちょっとご相談したい事があるんですけど・・・」
「どうした?」
「今週の土日、どちらでも構わないんですけれど、練習をお休みさせて頂きたいんです」
そう相談してから数日、りこは少しの荷物と手土産を持ち、青城の制服で再び関西へ乗り込んだ。
やはり宮城に比べると少々暑い。
そして人の数が宮城の比ではない。
悠長な訛りのあるアナウンスに従って、りこはどんどん電車を乗り継いでいく。
東海道本線、環状線、京阪線・・・・・・
懐かしい線や、駅名ばかり。
りこはこれから会う懐かしい人に、場所に、確かな決意を抱いた・・・。
「もしもし?りこです。おはようございます。今、最寄り駅まで着きました」
ーーー・・・
「今日、りこは・・・?」
見当たらない彼女の姿。
岩泉は口を開く。
「休み。前の学校の恩師に会いに行った」
タオルで汗を拭きつつく答える及川。
「そうなのか、何でまた・・・」
「ん〜、何か私ももっと前に進まなきゃって言い出して、気づいたら今日連絡が入ってた。ほんと、相変わらず俺の所にはずっとは居てくれないよ」
ドリンクを煽るように飲む。
「濃い!自分で作ったけど濃すぎる!!」
「そりゃずっとお前の近くにいたら遠くへ行きたくもなるだろ」
「ひっどいな岩ちゃん!」
ーーー・・・
「おー!久しぶりやな、元気か?」
久しぶりに会うのに、全然変わらない、りこは思った。
「お久しぶりです、先生・・・」
りこの、前の高校のバレーの監督。
りこの恩師・・・。