第14章 過去の遺物
「彼氏、すんげえ美形じゃん。面食いかよ」
元カレが言った。本気を冗談ぽく言っている。
「ちが…」
「違うよ」
と、言いたかったけど。
「俺はそういう世辞は好かん」
バージルが冷たく言い放つ。美形、という言葉に対して言ったのだろうが、ただ単に元カレが気にくわないだけ。
いや、嫉妬してくれるのは嬉しいけどね。
でもこんなんでも一応私の友達だから…。
バージルの表情は、いつもと同じようでいて温度が全然違う。
マイナスの寒さ。このままいけば、無言の内に相手を見下して侮蔑して嘲笑しそうな勢い。
「…不愉快だ。帰る」
バージルはくるりと踵を返すと、そのまま私を置いて歩き出す。
揺れた感情を上手く制御する方法を、彼は知らない。
私は元カレに別れを告げると、迷う事なくその背中を追いかけた。
後ろから何か声を掛けられたけど、聞こえないふり。当たり前でしょう。私はバージルが好きなんだから。
その不器用さも優しさも全部全部全部大好きだから。
きっと感情に任せて行動した事を悔やんでいる彼の背中を追いかける。
「まっ…てよ…!」
身長が高くて歩幅が大きいせいか、バージルは歩くのが早い。小走りで追いかけて息を切らせ、彼の服の裾を掴んだ。
バージルは、足は止めるものの私の方は見ない。
「何でそんな怒ってるの…あいつと会ったの、偶然なのに」
あいつ。
そう呼んだ瞬間、殺気に似たものを感じる。
決定的に嫉妬してくれてるよねこれ。いつまでも可愛い事するな、と呑気な事を思った。
きっと不安になっているんだろう。だから彼は目を合わせない。
心配しなくてもいいのに。
心配しなくても私の心には、バージル以外入る余地がないのに。