第12章 凍てつく夜
うっすらと白く流れる空気。
吐き出される吐息のもとは白く凍てつくような存在の彼。
はあ、と息をつく。
遠くを見渡すその瞳の何て力強い事。
白い肌に銀の髪。
黒いロングコートを風になびかせて凛と立つその姿。
氷のような鋭い視線。
繊細な線を描く横顔。
まるで雪の王。
───敵わないなぁ…
彼を前にすれば、どんな敵も視線一つで平伏しそうだと本気で思った。
その彼の瞳がすっとこちらを向く。
「どうした?」
尋ねる声はじんと身体に響いて溶ける。
唇の動きに惚けていれば、少しだけ心配そうな顔をする彼。
「寒いのか?」
「…え、あ。別に…」
我に返って慌てて否定。
しかし彼はコートを躊躇いなく脱ぐと、に被せてきた。
暖かい。
体温。
「い いいって! 大丈夫だから」
「着ていろ」
「バージル…!」
さっさと着せられて前のボタンを閉められる。
当然コートはぶかぶかで地面を擦り、は必死に袖から手を出して少しだけ持ち上げた。
汚したらまずい。何も言わないものの、バージルが何度となく着ているこのコートは絶対お気に入りだ。
バージルは文句を言わせまいとするように先を行く。
こうなったら何を言っても聞かないのは知っていた。
だから一言だけ。
バージルの顔を覗き込んで。
「ありがとう」
真冬のよく似合う彼は、ほんのりと薄く笑った。
2007/10/19