第10章 無自覚の優しさ
街を歩いているとバージル。人々が行き交う中、ウィンドウショッピングに近い足取りで店を眺める。
「新しい服欲しい…」
「この間あんなに買っていただろう」
「わかってないなぁ。女の子にとって服はいくらあっても足りないの!」
言うと、バージルは不思議そうに僅かに首を傾げた。
無理もない。バージルの私服といえばワイシャツがほとんど。「これが一番楽だ」と他のものを着ないのだ。
今日だって、水色のシャツに、スーツではないもののフォーマルに近い黒のジャケットを着ている。
一見すればそれはまるでスーツのようで。
「あ。バージルにも何か服買ってあげよっか!」
「いらん。十分足りている」
「足りてるって…シャツだけじゃん」
食い下がるものの、バージルはそれ以上は何も言うなという風に黙り込み。
まあ、本人がいいと言うなら、とも何も言わなかった。
シャツだってバージルに似合っているのだ。
だいたい、これ以上格好いい服を着られたらこっちの心臓がもたない。
そのまま歩いていると、ふと。
ぽつりと水滴を腕に感じた。
何だろう、と思う間もなく次の水滴。は空を見上げた。
「…雨…?」
ぽつりぽつり。誰かが泣いているような儚さ。
そういえば、天気予報では夕方から雨が降ると言っていた。
道行く人の幾人かが、鞄から折りたたみ傘を出す。