第6章 夜闇
夜は怖い。
昼間からは信じられないくらい真っ黒に空が染まる。
光が何もなくて何があるかもわからなくて、道も見えないし誰がいるのかもわからない。
誰かいるの?
誰がいるの?
本当にいる?
私一人?
暗い暗い闇色の空は
全てを塗り潰しそうなくらい重い。
は家の中から空を見上げて、息をついた。
何だかこの空を見ると心細くなる。
隣で本を読むバージルの服の裾を握った。確信を得ないと不安だった。
大丈夫、ここにいる。
「どうした?」
不思議そうにバージルは聞いてきた。
黙るに本から目を離す。
彼女に視線を向ける。
夜が怖いなんて言ったら馬鹿にされるだろうか。子供っぽいと笑われる?
言うのをためらったものの。
バージルが視線を外さない。言うしかなくなる。
「夜って、怖い。全部真っ黒になりそう」
窓を見つめたまま言う。
星ひとつ見当たらない空。闇に呑まれてしまったのだろうか。
「黒くはない」
窓をちらりと見たバージルは言った。
「夜の空は黒ではない。夕方と夜の境目の空は藍色だろう。蒼が濃いだけだ」
はバージルを見る。何でもないように言った彼は一瞬目を合わせた後、また本に夢中になる。
は少しの間バージルを見つめていたが、くすりと笑うと服の裾を握っていた手を離した。
かわりに一歩近付き、ぴったりと身体を寄り添わせる。
バージルはそんなを一瞬見ただけだったが。
口元はわずかに緩みきつい視線は和らいで。
貴方はそうやって、私の不安をたった一言で片付けて取り除いてしまうのね。
夜が好きになれそうな気がした。
深い蒼は貴方の色だから。
2007/08/19