第6章 守るため
仕事から帰ったダンテは、ドアを閉めると大きく息をついた。
まるで何かから必死に逃げてきたように、ゆっくりと長く。
「おかえり」
「ああ。ただいま」
私はすぐにダンテのもとに行って微笑みかける。
大丈夫よ。ここは安全よ。貴方を傷つける者なんて誰一人何一つない。
ダンテもそれに応えるように笑って。
重そうな剣と双銃の入ったホルスターを外しながらデスクに近づく。
「怪我しなかった?大丈夫?」
剣を立て掛ける背中に尋ねる。
動きが少しぶれた。ややあって、返答。
「俺が怪我なんかすると思うか?かすり傷ひとつねぇよ」
嘘つき。
特に寒くも無いのにコートは脱がないくせに。怪我をしてないと言うならコートを脱いでみてよ。
かすり傷ひとつないと言うなら、さっき私の横を通った時かすかにした血の匂いは何。
帰る途中、どこかのシャワー借りて軽く流したんでしょうけど。
それでも気をつけていればわかるくらい、怪我をしてる。
なのに貴方は。
それでも私は。
「そ。よかった」
嘘に、嘘で返す。
怪我をしていると正直に言うと、私が心配すると思ったんでしょう。だから、怪我をしてるのにしていないと嘘をついて。
根本的な解決になってないじゃない。嘘をつくより怪我をしないよう気をつけなさいよ。
でも、それを言うとダンテが罪悪感に見舞われるから。
悲しい顔で俯いて、たった一言で重く謝るから。
だから私はそっと、救急箱の位置を前と違う所に動かした。
私に気付かれずに取れるよう、わかりやすい場所に。
中身の補充も常に絶やさず。
互いが互いを守る嘘。
こんなの間違ってると、互いを信じきれていないと人は言うのかしら。
20070710