第41章 看病
ベッドの中仰向けに横たわるダンテは、一目見ただけでわかるほどに弱っていた。
普段の元気が時空の彼方に飛んだようなか細い声色。布団の上に置かれたダンテの手にはの手が重ねられている。
「あーもう俺死ぬんだ…最期に頼みがある。聞いてくれるか?」
「何?」
「俺と結婚してくれ」
「嫌。だいたい最期最期ってただの風邪じゃん馬鹿じゃないの」
弱々しく握ってくるダンテの手をべちんと叩いて放る。
「そりゃねーだろ!俺風邪なんてすんげー久しぶりなんだぞ!」
思わず身を起こすダンテ。その額からぽとりと白い布が落ちる。
が額を冷やそうと水につけて絞ったものだ。それを再びダンテの額に押し付けながら彼女はにこやかに言った。
「悪魔も風邪ひくのねえ」
「そーじゃなくて」
「馬鹿は風邪ひかないってあれ迷信だったみたいね」
「そーじゃなくて!」
ダンテは反論しかけたが諦めたようで、がっくりと肩を落とすとベッドに再び倒れ込んだ。
「もういいや…」
「そうそう。病人は大人しくしてなさい」
はサイドテーブルにあるリンゴを一つ手に取ると、しょりしょりと剥き始めた。
そろそろ小腹が空く頃だろう。ウサギの形に切るとお皿に置いていく。
やがて。
「ー…」
リンゴを剥いていく様子をじっと見ていたダンテがぼんやり言った。
「なに」
「やっぱりお願い」
「品性も知性もムードもないプロポーズならいりません」
「プロポーズじゃねえよ! なー看病してくれんならナース服着て」
の手が一瞬だけぶれる。
「…着るわけないでしょ」
「じゃあお金あげるから買ってきて。ミニのやつな。色は薄いピンクか白…」
「ダンテ」
遮った声は普段よりもいくらか低かった。
ダンテは本能で黙る。
「リンゴ剥いたからこれ食べて安静にしてなさい」
目の笑っていない笑顔を浮かべながらは言い。
ダンテの口にリンゴを突っ込んで黙らせたのだった。
2008/02/29