第25章 初めてついた貴方の嘘は (死ネタ)
絶対帰ってきてよね。
そう言ったあの時は何もかもが幸せで。
彼は笑って私も笑って。
気をつけて、と言ってみるも心の奥のどこかで彼は帰って来てくれると信じていて。
ドアから一歩踏み出す彼。
それはたった一歩。数十センチの間隔。
他愛もないただの一歩を踏み出してから。
彼はふと振り返って。
見送る私に、行ってくる、と低く囁いて軽く唇を触れ合わせる。
私はこの瞬間が大好きだった。
彼の戦い方からは考えられないくらい繊細に慈しみを込めて触れる唇。
この時だけは、いつでも初恋をしているような気分になれた。
なるべく早く帰る、と言った彼の言葉を信じて待つ。
だって今まで帰らなかった日なんてなかったもの。
彼は冗談は言うけれど嘘をついた事はなかった。
だから、ねえ。
早く扉を叩いてよ。
とびっきりの夕飯用意してあるのよ。
貴方のために。
今日も鳴らない開かないドア。
朝昼晩。
作られる二人分のご飯。
捨てられる一人分のご飯。
一年が過ぎて。
私は彼が家に置いていた銃を手に取って。
ねえ、あなたはあの日、どうしてこれを置いていったの?
私、そのことをずっと考えていたの。
だってこれは、あなたの大切な武器。仕事を遂行するための大事なもの。忘れていくはずのないもの。
何で置いていったのかな。
ずっと不思議だったの。
でもね、わかった。
やっとわかったわ。
これは、あなたに逢いに行くための招待状なのね?
にっこり笑って、銃口を自分の喉に向けた。
弾丸が涙に濡れる。
20071023