第3章 傷…
抱き締めたくなる衝動を堪えようと、僕は目を閉じ、唇を固く結んだ。
それなのに…
「智子…、兄さまが好き…。潤先生のことは好きよ? でも、それよりも兄さまのことが…」
智子が涙に濡れた頬を僕の胸に埋めた。
ああ…、心臓が張り裂けそうだ…
「兄さまは? 兄さまは智子のことがお嫌い?」
そんなことある筈がない。
だって僕の心の大半を埋め尽くしているのは、智子…お前なのだから…
「嫌いなもんか…。智子は僕の大事な妹なんだから…」
そう…
どんなに恋焦がれようと、僕達は血の繋がった兄妹…
決して結ばれることはないんだ。
「それだけ? 智子が妹だから? だから兄さまは智子が好き、って仰るの?」
「そ、そうだよ? それ以外に何があると言うんだい?」
「そう…なのね…。智子は妹だから…」
僕の背中に回った手が、どんどん力を失くして行き、終いには糸の切れたマリオネットのように垂れ下がった。
「智子はどうして妹なんかに生まれてしまったのかしら…。ううん、兄さまが潤先生だったら良かったのに…。そしたら智子、兄さまのお嫁さんになれたのに…」
僕も何度そう思ったことか…
智子が、父様が妾に産ませた子じゃなかったら、僕はこんな思いをしなくてもすんだのに…
きっと智子の涙を見ることだってなかった筈だ…
ああ…、神様はなんて意地悪なんだろう…
僕は少しずつ離れて行く智子の頬を指で撫でた。
妹を愛してしまった罪の証を…
「傷」〜完〜