第3章 傷…
智子の頬の傷は、何日経っても消えることは無かった。
それは潤の見立て通りで…
最初に傷の手当をした時、潤は僕に向かっ言ったんだ。
「智子の頬の傷は、おそらく一生消えることはないだろう…」
と…
僕は智子の顔に傷を付けた母様を恨むと同時に、自分自身をも恨んだ。
僕ならば良かった。
僕の顔なら、どれだけ傷ついたってかまやしないのに…
ああ…、出来ることなら代わってやりたい…
僕は智子の頬に刻まれた醜い傷跡を見る度、後悔の念に苛まれた。
父様は、智子の顔に傷を付けた母様を激しく叱責した。
父様は智子を、それこそ目に入れても痛くない程に可愛がっていたし、それに何より、若い娘の顔に傷を付けたのだから、父様がお怒りになるのは当然だ。
でも母様は、何ら悪びれる様子もなく、それまでと変わらない態度で智子に接していた。
母様が智子の世話を使用人に任せることは、一切なかった。
智子の栗色の長い巻毛を結い、母様好みの洋服や着物を山のように買い付けては、それを智子に着付けた。
風呂の世話に至るまで、全て母様一人が行ってきた。
それは智子がこの家にやって来た時から、ずっと続いて来たことで、母様はそれについての不満を漏らす訳でもなく、漸く授かった娘の世話を、寧ろ楽しんでいるようにすら見えた。
それなのに何故…