第6章 陰陽師達の思想
背を向けている為2人の表情は分からないが、少しの沈黙のあとお邪魔しましたと小さく聞こえた。
「…なぁ千音。香純はああ言ったけどお前の事が心配なんだよ」
「……」
しかし晴明の言葉に、私は沈黙を返した。
「俺は出来る限りお前の事助けるつもりだから。…それじゃ」
それで諦めたのか、晴明もまた部屋を出て行った。
「…ごめんね、九威那。変なところ見せちゃって」
「いや…」
嗚呼…どうしてこうも上手くいかないのだろう。
人型になった九威那の胸に寄りかかる。
「お、おい…!」
「ごめん九威那…。少しだけでいいから…こうさせて…」
戸惑いながらも受け入れてくれる九威那。今はその優しさが有難かった。
「ねぇ九威那、私が思い描いてる理想…聞いてくれる?」
「ああ」
そして私はある日から思い描いてきた理想を語りだした。
「…私、さ。まだ5歳くらいの時にキツネ耳の小さな女の子に会ったことがあるの。その子はね、膝を擦りむいてて泣いてたんだ」
そして当然最初のうちは警戒されながらも私は治癒術でその子の怪我を治してやった。すると女の子は嬉しそうに"ありがとう!"と言って笑い、妖界へと帰っていった。
「それからかな。私が怪我した妖を助け出すようになったのと"人と妖の共存"を思い描くようになったのは 」
先ほど香純にくだらない理想と言われてしまったが、私は実現したい。かつての先祖達がそうであったように。
「…そうか」
人と妖の共存。そんなこと考えたこともなかった。
人と妖は相容れない者同士だ。果たして本当に共存することなど可能なのだろうか?
妖が人間を憎み、人間が妖を恨むこの関係を変えることが可能なのか?
――否。
「…確かにその理想が実現したのならそれは奇跡に近い事だろう。だが、今互いの間にある確執をどうにかしない限りは絵空事でしかないぞ」