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君想ふ

第6章 陰陽師達の思想


そして晴明と香純が部屋にやってきた。
私は冷蔵庫で冷やしてあったペットボトルのお茶を人数分出し腰を下ろす。
「やー、ごめんね?相談せず決めちゃって」
「それは…まぁ今回は晴明が言ってたからいいけど、事前に言ってくれなきゃこっちも困るよ」
そう言って少し俯く。この2人は私が密かに怪我をした妖の治療をしていることを知っている。知っている上で、見て見ぬ振りをしてくれているのだ。
「それで…今回はその小狐が患者さん?」
小狐の姿で千音の膝上で丸まっている九威那に視線を向ける。
「あ…うん。まだ治療中だから触っちゃダメだよ?」
「ふーん…。そういえば千音、その怪我した妖を治療してる事なんだけど」
そこで一度区切り、香純と晴明は顔を見あわせて神妙な面持ちで切り出した。
「あのね、私達もあなたの事見て見ぬ振り出来なくなるかもしれないの」
「ぇ…」
一瞬理解が追いつかなかった。
確かに私達陰陽師の家系に生まれた者にとっては妖は滅する対象。これまで見て見ぬ振りをしてくれていたのはとても有難かったが、何故こんなにも急に――?
「俺の家、芦屋は主に捕縛や尋問という分野に長けた家系」
「私の家、倉橋は主に戦闘という分野に長けた家系。そして貴女の家、土御門は――」
「…諜報・工作に長け、封印術を得意とする家系」
「分かってるわよね?本来ならば手負いの妖を発見したらトドメをさすべきだって。これは私達陰陽師の家系では共通の考えだわ。貴女はそれに反することをしているのよ?」
「…分かってるっ!」
「だったら何時までもくだらない理想にしがみつくのはやめなさいよ!」
「おい香純!落ち着けって!!」
晴明が激昂する香純を宥める。
"くだらない理想"
次代当主の第一候補の2人にとっては、私が抱く理想なんてくだらない絵空事なのかもしれない。――でも。
「例えくだらないと言われようと…私はきっと実現できるって信じてる…!」
「千音…お前…」
なんとも言えないような声音で呟く晴明。私は2人に背を向けて寝室の方へ歩いて行く。
「おい…!」
「――出ていって」
戸惑いを顕にする晴明の声を背に、私は再度強く言い放つ。
「聞こえなかったの?この部屋から出ていって!!」
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