第1章 0になる時 【政宗視点】
まだかよ…早く、帰ってこいよ。
愛しい恋人が俺の腕の中にいない。
自分より、大人で落ち着いたあいつは
今、ここにいない。
「早く、帰ってこいよ…。」
あの、意地悪な笑みを
あの、華奢なようで鍛えられた身体を
全てを、抱きしめたい。
「政宗?」
っ…!?この声、は…。
「今戻ったぞ。ただいま。」
「み、つひで…。」
「どうした?化け物でも見るような顔をして。」
幻、じゃねぇよな。
会いたくて会いたくて、仕方がない故に
創り出した幻なんてことは…。
「光秀、だよな…?」
「なにを訳の分からないことを。俺以外に誰がいるというんだ?」
俺は思わず抱きしめた。
途端に香るこの匂いは
紛れもなく、光秀のものだ。
愛しい恋人が、ここに…。
「急に抱きしめたりして、一体どうしたんだ?」
「待った。」
「すまないな。今回も長引いてしまって。」
「仕事なら仕方ねぇだろ。」
「拗ねているのか?」
「ちげぇよ。」
嘘だ。拗ねてる。
俺だけが会いたくて仕方なかったみたいで。
俺だけが、愛してるみたいで。
しばらく抱きしめたままにしていると
頭に優しい温もりが触れる。
それが光秀の手だと気づくのに、
時間など必要なかった。
「寂しかったのか?」
「……そうだって言ったら、どうするんだよ。」
「夜が明けるまで、側にいてやろう。」
「…誘ってるのか?」
「会いたかったのは、俺も同じだからな。早く帰って、お前に触れられたかった。政宗。」
光秀はそう言うと、軽く唇を重ねた。
触れるだけだったものが
少しずつ…少しずつ…深くなっていく。
それと伴って、俺の身体も
熱くなっていった。
もう、自分を止める術などもっていない。
その場に押し倒し、澄んだ瞳をのぞき込む。
「離さなくて、いいんだろ?」
「ああ。離すな。」
余裕の表情を浮かべる光秀。
光秀はいつも、俺が欲しい言葉をくれる。
俺が光秀に勝つ日など、
来ないのかもしれない。
柔らかな微笑みに隠された情欲に
──ただ、堕ちていくことにした。