第7章 別れの時
「お邪魔しました!」
「飯、食ってけばいいのに……」
「お母さん、心配しちゃうから」
「……なんかあれば、すぐ連絡しろよ?」
「もぉ、孝支は心配性なんだからー」
そう言ってケタケタと笑う紗奈の笑顔はニセモノではなかった。
「紗奈……」
「んっ?」
名前を呼んで手招きすれば、素直にやってくる。
俺は紗奈を抱き締め、唇を奪った。
「ちょっ!!? 孝支!!!」
「へへっ! 次会う時までのおまじない♪」
「何それ? しかも次って、明日も会えるでしょ?」
「俺がしたかったからいいんだよ!」
こんな他愛もない時間にも幸せを感じる。
「送ってくか?」
「送るって私の家、隣にあるの忘れた?」
「知ってる」
「大丈夫だよ、それに……送って貰ったら帰りたく無くなりそう」
困った顔で笑う紗奈は、とても儚く見えた。
「じゃあ、また……」
「うん、また明日……」
玄関先まで見送り、紗奈が家に入るまで見守った。
扉に姿が隠れる間際、紗奈が手を振った。
俺も振り返し、そして別れた。