第3章 この子うちに泊まる気だ
サッと血の気が引く。
「あ、あの……さっきは少し言いすぎたかなっていうか、私もカッとなってしまったというか」
やばい、やばいやばい。
頭の中の警報がものすごい勢いで鳴ってるのが聞こえる。
自分のやってしまったことの大変さに気づいた。
早口で言い訳をしてみるけれど、大した言い訳も思いつかない。
それよりなにより、自分の首に手を添われていること、それだけのことが震えるほど恐ろしかった。
背筋に走る悪寒が止まらない。
「へぇ〜それで?」
「だから……さっきはアドレナリンがいっぱい出てて、なんか正気じゃなかったっていうか……そう、私の中のアドレナリンが悪いんです!」
ぶふっと目の前で吹き出された。
「アドレナリンもお前が生成したもんだろうが。つまり、お前が悪いと。さて、どうしたもんか」
まぶたの重そうな、その黒い瞳がこちらを見下ろす。
身体を完全に取り押さえられた私には、もはや成す術なんてありはしない。
私の家に突然現れたのが、こんなにやばいやつだったなんて。
今さら後悔したって遅い。
「ねぇ、どうすれば許してくれるの? さっきは本当にごめん。少し勢いで言っちゃっただけなの。許してよ」
年上が高校生にこのセリフ、聞いて呆れる。
だけど今の私はなりふり構ってられなかった。
この手を、とにかく早くどけてほしい。
ねだるように見上げると、彼はいっそう楽しそうにニヤリと笑った。
「俺の犬になれ。絶対服従だ」
「はぁ!?」
「お前にそれ以外の選択肢はない」
ふいに首を握る手に力が入った。
人間の急所を握って脅すなんて、最低だ。
「……この下衆」
せめてもの報いと、呟く。
ふはっ、と笑い声が響いた。
「最高の褒め言葉だ」