第12章 楽しい未来
「なあ……」
「なに?」
話しかけられ振り向くのだけど、花宮は黙ったままで次の言葉を続けない。
結局、「やっぱりなんでもない」と目を伏せてしまう。
そういうことが何度かあった。
さすがに気になって、「さっきからなに?」と私がたずねてみても「なんでもない」の一点張り。
自分から切り出してきて本当になんなんだろう。
花宮はインスタントのコーヒーを飲みながらテレビのニュースを眺めている。
花宮の使っているマグカップは某夢の国のキャラクターが印刷されたものだ。
使っていないカップがないかと聞かれて奥に眠っていたものを出したんだけど……花宮が使うにはデザインがかわいすぎるかも。
うん、カップも買った方がいいな。
「そうだ、買い物いつ行く?」
「買い物?」
「うん、色々必要なものあるでしょ」
私がそう言うと、花宮はマグカップを置いて少し考える。
「その前に、少しパソコン借りてもいいですか?」
「パソコン? いいよ」
「……キセキの世代って知ってますか?」
私が自室からパソコンを持ってこようと立ち上がると、ふいにそんな質問をされる。
「キセキの世代?」
あまり耳慣れない言葉だった。
「俺の一個下の学年に、キセキの世代って呼ばれるバスケ選手が何人かいるんです」
「へぇ、そんな子達がいるんだ」
「メディアにもけっこう取り上げられてるんですけど……」
残念ながら私は知らない。
ゆるく首をふる。
すると花宮はまた眉を寄せて思案顔になった。
そんなに眉を寄せたらいつかくっついてしまいそうだ。
私が持ってきたパソコンを起動させると、花宮はさっそく大手検索サイトの画面を開いた。
検索バーに『キセキの世代 バスケ』と打ち込む。
エンターキーを押すと、検索結果がちらほらと現れた。
画面をスクロールさせると、すぐに関係ないようなサイト名が目立つようになる。
「どう?」
「…………ない、ですね」
花宮が大きくため息をつく。
それから『霧崎第一高校』『バスケ インターハイ 常連校』『黄瀬涼太』などのワードも打ち込んでみたけど、どれも思ったような結果は出なかったようだ。