第9章 どうなってやがる(花宮side)
花宮side.
レンガ壁の建物は、越智のマンションで間違いなかった。
正面に回り込んで、十数分前に見たそのままの光景であることを確認する。
その後再びマンションの裏手に戻ると、きょろきょろと挙動不審に周りを見回す越智がいた。
俺と目が合うと、途端に駆け寄ってくる。
「いた、花宮!! よかった、いきなり走るから、どこ行ったのかと思って焦るし……なんか花宮、変だったし……もう、いきなり走っていかないでよ!!」
瞬きを繰り返しながら、必死に説明する様がおかしくて、思わず笑ってしまった。
人がテンパってるの見ると、冷静になれるって本当だな。
「……なんで笑ってんの」
「いや別に…………越智、これから少し付き合えよ」
「え? ちょっと!」
俺が黙って駅と反対方向に歩きはじめると、越智が慌てて後ろをついてくる。
五分歩くか、歩かないか。
そのくらいの距離に、公園があるはずだった。
住宅街に浮かぶ孤島にしては領土が大きく、それに比例するように来場者数もそこそこ多い。
周りを柵と花だんに囲まれた子ども達の憩いの場は、やがて見えてきた。
土曜日だからか、午前中だというのに賑やかな広場。
動物園のような甲高い声が響いているが、今はそこまで不快じゃない。
ちゃんと、ここに存在してくれているだけでよかった。
「すぐ近くにこんなおっきい公園あったんだね……」
「は? お前すぐ近くに住んでんじゃねーか。知らなかったのかよ」
「だって、いつも駅とマンション往復するだけだし」
俺の教室からはこの公園が見えるんだが……三つの棟が並ぶこいつのマンションでは、部屋によっては見えないのかもしれない。