第20章 【初恋の人】×【再会】
彼があの子と話す時に見せる楽しそうな表情が、とても好きだった。
まるで悪戯を楽しむ子供みたいで。
少し素直じゃないけど、ちゃんと優しい所もあって。
あの子の名前を呼ぶその声も、好きだった。
「…市倉?」
本当は1度くらい。私の事だって、ちゃんと名前で呼んで欲しいけど、
でもやっぱり、名前があの子と一緒だと、呼びづらいかな。なんて、
「あ…えっと、ごめん。少し違う事考えてた。」
だから、少し我慢。
「それより、ウエディングドレス姿、蒼依くんは見たの?」
「…あぁ、うん。」
「綺麗だった?」
「……ん。」
間もあったし、曖昧な答えだったけど 、それはちゃんと、
はい。の方の答えで合ってるんだと思う。
「そっか。」
あの子は…自分の幸せを見つけたんだ。
自分だけの、幸せを。掴んだんだ。
それなのに、私はどうしてこんなに、情けないのか。
ずっと初恋の人を忘れられずに、こんな所で1人。
…それどころか、初恋の人の失恋をほんの少しだけ喜んでいるなんて最低だ。
「市倉は?良い人とか、居ないの。」
彼の質問に、少し驚く。
考えていた言葉達が、口に出ていたのか、本当に気になったのかは知らないけど。
そんな彼に、少しだけ意地悪?
「初恋だった人が忘れられなくて。」
でも〝 貴方の事が忘れられなくて。 〟 なんて、口が裂けても言えないから。
ちょっと濁したりして。
「…へぇ、」
また少しだけ曖昧な反応。どういう意味のへぇ、なのか全くわからない。
「…」「…」
少しの無言の後、彼がぽつりと、言葉を零した。
「…俺も一緒。」
分かってはいたけど、聞きたくなかった。
「なら、」
「その人を越すくらい、素敵な人に出会わないとね。」
自分にも言い聞かせながら。そんな返しをした。