第19章 【不器用彼氏】×【喧嘩】
たった1言。
呟いた言葉から彼女をこんなにも傷付けてしまうとは、思ってもいなかった。
「…そんなこと言うなら俺は、
雨衣よりあの子の方が可愛いと思うけど。」
だなんて、俺は。どうして言ってしまったのか。
本当は、そんな事一切思っていない。思った事もない。
それに、〝 あの子 〟 と面と向かって話したり、ちゃんと顔を見た事すらない。
この間偶々、友人があの子はまさに美人だ。と話していたのを聞いただけ。
言い訳をするつもりはないけど、こっちにだってちゃんとした理由はある。
俺が居るのにあんなに弟を褒めるものだから、少しムカついて俺も…。
「今日ね。蒼依くんがね、荷物持ってくれて…本当に格好良かったんだよ!
きっと、モテるんだろうなぁ~! 彼女とか居るのかな?、居るなら見てみたいなぁ…。」
雨衣にはそんな気は無いとしても、
なんだか俺じゃ物足りない。と蒼依のが格好良いと。言われてる様な気がしてしまって。
「へぇ、あいつにもそんな所があるんだな。」
とか、そんな感じの大人な対応ができる訳もなく。
流石に少し大人げないなと思った。
これじゃ、どっちが蒼依と兄だか分かんないし。
俺がはっと我に返った時、彼女は確かに泣いていた。
そしてすぐ、どこかへ走って行ってしまった。
かなり遅れて雨衣を追い掛ける。
それでも怖くてすぐには追い掛けられなかった俺は、本当に、弱虫だ。
「…ここにも居ない…。」
酷いことを言ってしまった自分に苛立ちながら、
色んな所で雨衣を探しても、見つかる訳もなく。
「…さむ。」
そう言えば、雨衣は薄着だったっけ。
寒くないのかな。
寒がりな俺に比べて、雨衣はいつも元気だから、大丈夫だといいけど。
1人震えていると、ぶぶ、と携帯が小さく震えた。
「こんな時に…。」
弟からのメールだった。
『 兄さん、早く帰ってきなよ。
あんまり遅いと、俺が雨衣さん貰っちゃうんだけど。 』