第69章 【執事】×【お嬢様】
「お嬢様は、俺が嫌ですか?」
俺は、この命が尽きるその時まで、
お嬢様の傍に居るのだと、そう思っていた。
でもお嬢様はそれを望んでは居なかった。
本当は、少しだけ嬉しいと思っている自分もいた。
お嬢様が望まなくても、お嬢様の隣に居られるなら。
お嬢様は、驚いて私を見た。
「嫌なんてことない!」
怒っているようにも見える。
「……なら、どうして嫌だと言ったのですか。」
つい言ってしまった。
これではさっきの話を聞いていた事がバレてしまう。
「…聞いていたのね。だって、
執事のままじゃ貴方が幸せになれないじゃない。
私は貴方に幸せになって欲しいの。」
聞いていたことには、お嬢様は怒らなかった。
泣きそうな顔で俺に話す。
「好きな人には幸せになって欲しいから。」
そんなことを思っていたなんて知らなかったから、
俺の方が泣きたくなってしまう。執事なのに情けない。
「お嬢様、俺は。」
この続きは多分、今は言えないから。
「どうしたの?」
「……いえ、」
きょとんとしているお嬢様の額にそっとキスをする。
「…いつかその唇に触れられるその日が来たら、
俺の気持ちを聞いてください。」
ほら、また顔が赤くなった。
「今はこのままで、十分幸せですから」
お嬢様は、嬉しそうに、
けれどほんの少しだけ悲しく笑った。
「……そう。」
今は、執事のままでいい。
俺の力で、俺の手でちゃんと幸せに出来る
その日が来たら。
その時は、
お嬢様としてじゃなくてお嫁さんとして、
君を迎えに行くよ。
だから、待っていて。―雨衣。