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色々彼氏 。【短編集】

第68章 【優等生】×【意地悪】


「後輩ちゃんはさ、なんで俺のこと好きになったの?」

先輩を好きになった日のことは、今でもハッキリと覚えてる。

転んでしまった私に
先輩は唯一笑わずに優しく手を差し伸べてくれた。

掴んだ先輩の手は少し冷たかったかもしれない。

けれどあの日の私にとってはとても暖かいものだった。

「笑われたって気にしなかったけど、
先輩が手を差し出してくれた時すごく嬉しかったんです」

大袈裟かもしれないけど、私は救われていた。

「あの日からずっと、先輩のことを好きでした。」

先輩は嬉しそうに笑った。
でも一瞬、寂しそうな顔をした。

先輩の髪が風に揺れる。

「俺、そんなに優しくないし真面目じゃないよ?」

ふい、と先輩は前を向いてしまった。
先輩の後ろ姿は、少し寂しそうで。

「せんぱ「もう駅だね。」」

言おうとした言葉は、先輩に遮られてしまった。

先輩はただ前を見ている。
ふたり、帰り道をただ歩く。

ただ歩いているだけで、こんなに幸せなんて。

もうすぐ駅に着く。
先輩とは反対の電車だから、ここでさよならだ。

先輩の乗る電車の方が早く来る。
早く、伝え忘れたことを言わなくちゃ。

「先輩、」

先輩が私を見る。

「私は、どんな先輩だって好きですよ。」

先輩は驚いていたけれどすぐに笑った。

「…電車に乗る前に俺の頼み聞いてくれない?」
「はい!」

「先輩、じゃなくて名前で呼んでよ。」

先輩の表情からは、
真剣なのかからかっているのか分からなかった。

電車が来ることを知らせるアナウンスが鳴る。

「ほら、早く。」

「……空さん」

名前を呼ぶのなんて初めてだったから、
ほんの少し恥ずかしい。

先輩は満足そうに笑った。
先輩の乗る電車が来る。

「……よくできました。雨衣」

くしゃ、と頭を撫でられたと思ったらキスされた。
それはあまりに突然で、頭が追い付かない。

電車が止まって扉が開く。

「また明日。」

先輩は私に手を振ると、電車に乗って行ってしまった。
扉が閉まっても先輩は手を振っていた。

「また…あした、」

私も手を振り返そうとするけれど、その頃には、
先輩の電車は行ってしまった。

代わりに私の乗る方の電車のアナウンスが鳴った。

名前呼び、キス、また明日という言葉。
ドキドキして、先輩のことが頭から離れない。
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