第66章 【死神】×【最期の日】
「やっぱり教えてあげない。でも、もうそろそろ
分かるよ。ほら、」
死神が部屋の時計を指差す。
時計は5時50分を現していた。
日が暮れる頃。それは6時を現しているんだと、
今分かった。
理解した瞬間、外から私を呼ぶ声がした。
きっとこの時間の訪問者は、何か関係があるはずで。
ちらりと死神の顔を見る。
死神は悲しそうな顔で頷いた。
きっとこれで死神ともお別れた。
次に死神が私を見る時、きっと私はもう―
死神に手を振って、私は声のする方へ向かった。
「お嬢さん、行っちゃダメだ!」
ドアに手を掛けた時、後ろから声が聞こえたけれど。
私は行かなくちゃ。運命には逆らえないんだから。
「ありがとう。最後の日をこんなに楽しませてくれて。」
死神と過ごす最後の一日は、まあ悪くなかったと思う。
ドアを開けると、隣に住んでいるおばあさんが居た。
良く孫のように可愛がってもらっていた。
「ごめんねぇ…今買い物に行ってきたんだけれど、
キャベツを買い忘れてしまって……
もしも暇なら、買いに行ってきてもらえないかしら。」
「はい!行きますよ。」
ふふ、と笑って、おばあさんはお金をくれた。
「良かったわ…ありがとうね。きっとお釣りが出るから、それで何か買って来ていいわよ。」
「ありがとうございます。じゃあ行ってきますね。」
お金を預かり、上着を着て近くのコンビニへ向かう。
キャベツくらいなら、コンビニにもあるはずだ。
向かう途中小学生達が話しながら歩いていた。
楽しそうで見ていて微笑ましい。
「あ、!急がないとみたいアニメ始まっちゃう…!」
そう言って一人の少女が横断歩道へ走り出す。
信号は、赤。
大きなトラックが、少女に近付いて行く。
「危ないっ!!!」
私の体は自然にそっちへ動いていた。
意識が遠のく中、
泣きそうな顔をした死神がそこに見えた気がした。
命を奪っているのは自分だけど、
人の命の短さにはいつも驚かされる。
お嬢さんが助けたあの少女も、
いつかは自分が命を取りに来る時が来るのだろうか。
さっきお嬢さんにハンバーグを作って貰った時よりも、
お腹はどんどん満たされていく。
「お腹はもう空いていないのに、
こんなにも寂しいのはどうしてなんだろうな。」
満たされているはずなのに、心には穴が空いたようだった。
