第65章 【大切だった貴方と。】×【再会】
「……。雨衣。」
誰かが私を呼んでいる。
聞き覚えのあるような、ないような。
初めて恋を知った頃くらいの、若い声。
「どなたですか。」
「………それは秘密。」
質問に答えたその声は一瞬震えていたように思えた。
辺りを何度も何度も見渡しても声の主は見えない。
声だけがどうしてか聞こえてくる。
懐かしい気配がして、無性に泣きたくなる。
もしかしたらこの声が、あの願いが、
遥か遠くの貴方へ届いてくれたのかもしれない。
そう思いたくなった。
「元気そうで安心したよ。本当に良かった。」
さっきよりも声が震えていて、
私よりも泣きそうになっているみたい。
「僕との思い出なんてずっと昔のことなのに、
どうして僕をずっと好きでいてくれたの?」
それは、きっと。
「貴方以上に素敵な人が見つからなかっただけですよ。」
「…………ごめんね。ちゃんと恋して欲しいって思ってたのに、そう言ってくれるのがこんなに嬉しいなんて思わなかった。」
声を聞いているうちにあの頃に戻ったみたいに、
ピースが埋まるみたいに、思い出が蘇っていく。
ずっとずっと会いたくて触れたくて仕方なかったから、抱き締めたくなってしまう。
声を聞けるだけでも贅沢なのに、
話しているとそれ以上を求めてしまう。
「幸せだった?」
その声は暖かくて。けれど心に深い寂しさを落とす。
「…幸せでしたよ。
だけど、貴方の居ない世界はやっぱり寂しかった。
どこに居たって何をしたって貴方の事を考えていた。」
何をしていても満たされなかった。
あの人ならこうしていたんだろうとか、
そんなことばかり考えていた気がする。
「置いて行ってしまってごめん。
でも、僕の分まで生きていてくれてありがとう。」
空が居なくなってしまった
あの日に読んだ本のように
最愛の人を失っても生きていこうと考えていたけれど、どうしても会いたくなってしまって。
何度も何度も会いに行こうか考えた。でも、
そうしなかったのは貴方が悲しむと思ったから。
「人生って本当に残酷で、早く其方へ行きたいと
思う程に長く生きるものだから、今日までの毎日はとても長かったわ、」
少しの愚痴も、たまにくらいならいいでしょう?
この日をずっと待ち続けて居たんだから、
長く感じるのも当然だ