第36章 【片想い】×【秘密の関係】
「…こっち。」
はやく、と急かすように彼を呼ぶ。
所詮私達は体だけの関係。会うことは多く無い。
だからこうして2人でゆっくりと過ごすのは、久しぶりに思える。
そんな事を考えている私に近付きながら、知ってか知らずか彼は呟く。
「久しぶり。寂しかった? …なんて、」
そして、悲しく笑った。
「…そうね。少しだけ。」
本当はそれほど寂しくは…――否、強がりだ。寂しかったんだと思う。
私は多分、この男が好きだ。多分と言いつつも、それは確信に近いもので。
だったらこんな関係は、もう辞めてしまえば良いのに。
私に対する態度や行動が、変わってしまいそうで怖いから。この関係のままで十分だ。
「そっか、」
それだけ言って、噛み付くようにキスをした。
その時見えた表情がどんな意味を持つのかは、私には分からなかった。
「…明日の予定は?」
帰り際、そう聞かれる。…いつもの事だ。
暇だと答えようが忙しいと答えようが誘われるわけもなくそれで終わる。
正直、よく分からない。
「明日は休み。ずっと家に居るつもりだけど。」
「…そうなんだ。」
と、ぎこちなく笑う。何その反応。とか聞けたらいいけど、私にそんな勇気は無かった。
この男の表情を私が読み取れた事は、今まで数える程しかない。
私の理解力が低いのかこの男が色々と謎なのか。
「そっちは、どうなの。」
なんで私の予定を聞いたの。そんな意味も込めて言った。
「…俺も、休み。でも、あしたは、」
突然言葉に詰まった。
私は一瞬にして理解する。
「――ああ、彼女。ね。」
私は、どうしてこんな男の事を好きなんだろう。明日は今の彼女との初デートだと言うのに、その前日に他の女の予定を聞くような男のことを。
「邪魔しにでも、行ってあげようか?」
それも悪くないかもしれない。と思っていると、笑い声が聞こえる。
「それは辞めてほしいかな、」
「本当にやるとでも?」
「…雨衣ならやり兼ねないでしょ。」
「…バレた?」
やるか、そんなこと。私のイメージどうなってんだ。
私だってさすがにそんな事しない。
「まあ、頑張って。一応応援してあげる。」
後何回彼女作るつもりなんだ。
もう別れて彼女作っての繰り返しには見飽きたし、応援してあげてもいいかもしれない。