第32章 【クラスメイト】×【人気者】
「なに読んでんの?」
読んでいた本を覗き込んで私に言った。
確か名前は…空くんだっけ。クラスで凄く人気がある。
いつも気になっては居たけれど、私には中々話し掛けられない人。
そんな人が私に何の用なんだと、少しだけ疑う。
いきなり私が気安く話すのも気が引けて、つい敬語になる。
「…恋愛小説…です。」
お気に入りの恋愛小説。でも読んでいるのを見られるのは少し恥ずかしい。
「へぇ~!どんな話?」
「…えっ。」
「…ん?」
正直、驚いた。男の人は恋愛小説なんて興味が無いと思っていたから。
そこまで食いつくとは思っていなかった。
「えっと、主人公の女の子が憧れの人に話しかける為に頑張るお話で…。」
私の説明を空くんは何も言わず、ただただ真剣に聞いてくれていた。
「それで…って…すみません。長話しちゃう所でした。」
このまま話してしまったら、話したい事が多すぎていつまで掛かるか分からない。
それは申し訳ないからと、話を辞めた。
そんな私を見て、ぷく、と頬を膨らませる。
「えー!良いのに。」
なんだかその姿を見て、余計に申し訳なくなって。
「…良かったら…これ、どうぞ。」
持っていた本を、そっと差し出した。
嬉しそうに笑って、本を手に取ると、「いいの?ありがとう!」と言う。
「絶対、すぐ返すから!」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。」
少しだけでもこの小説に興味を持ってくれたのが嬉しかったから。
嬉しい気分のまま、その日私は家へと帰った。
…はずなのに。
起きて今更、我に返って不安になる。
やっぱり、昨日のは罰ゲームみたいなもので_____
なんて、変な想像ばかりが頭に浮かぶ。
重い足取りで学校へと向かった。