第1章 はじめて <フェンリル>
ルカが心配そうにわたしの顔を覗いてくる。
フェンリルの名前を聞いただけで変にどきどきしてしまった。
「あら、アリスちゃん、フェンリルとなにかあったのかしら?」
セスさんがにやにやしてる。
恥ずかしくってなんだか汗まででてきてしまった。
「ミラ、行ってきなよ。あとはセスとできるから。手伝ってくれてありがとう。」
ルカがさりげなくわたしの手から洗濯物を取る。
「いや、いや、急ぎじゃないだろうし…大丈夫!手伝わせて」
「いいの?」
「あとでちゃんと行くから!」
と、困ったような顔をするふたりをよそに、わたしは洗濯物を干す作業を黙々と続けた。
洗濯物干しが終わってから、フェンリルを探してみたけど、兵舎のどこにもいなかった。
そして、フェンリルは見つからないまま夕方になってしまっていた。
わたしのことを探してたって聞いたのに、肝心のフェンリルがいない。
ほんとにどこに行ってしまったのやら。
とぼとぼ食堂に続く廊下を歩いていると、反対側からレイが歩いてくるのが見えた。
そういえば朝、レイはフェンリルと一緒にいたっけ。
「レイ!フェンリル見てない?」
「え、あいつもミラのこと探してたけど。もしかして会ってない?」
「うん…。わたしも朝からずっと探してるのに…どこ行っちゃったんだろ」
うーん、とレイが少し考えるしぐさをして、うつむく。
「俺も朝会ったっきりなんだよ。まあ、もうメシだし、来るよ。帰ってきたらどこ行ってたか聞いてみれば?」
「うん。そうするね、ありがとう。」
レイと別れて、わたしはそのまま食堂に入った。
入った途端、
「ミラ!」
誰かに呼ばれ、顔をあげると、そこにはフェンリルが立っていた。
「フェンリル?!どこ行ってたの?ずっと探してたのに!」
「俺も探してたよ、ミラこそどこ行ってたんだよ?」
「え…?わたしずっと兵舎にいたよ?」
「は?俺もだけど?」
ん?
どういうこと?お互い兵舎でお互いを探してたっていうこと?
まさか、そんなことが。
「朝、ミラがフェンリルを探しに行ったあと、ミラを探すフェンリルを、見た。」
ルカがお皿を運びながら、わたしたちに言う。
「え、そうなの?」