第23章 願い
森の中の小道を、馬の背に揺られ進む。木々の間から射し込む光に眼を細め、先頭を行く案内役の一之助と、続く家康の背を追いながら馬の手綱を掴み直す。
残りの始末を供の者に任せ、ひいろの治療の為、近くにあるいろは屋の別邸へと急ぐこととなった。急ぐとはいえ、傷を負ったひいろを案じながらの道行きに、気は急くも馬の歩みはゆっくりとしたものとなる。
馬の揺れが気持ちいいのか、胸の中のことねは尚も眠ったまま、時折俺の胸に顔を寄せては寝息を立てていた。
「たいしたものだな、お前は」
倒れるまで気を張り、解放されればうなされるでもなく眠り続ける。全てを忘れるためか、それとも肝が座っているのか、ことねの寝顔はいつものように穏やかだった。
血の気が戻った頬は柔らかく、そのぬくもりに胸の奥まで包まれていくようで、僅かによぎったひいろを失うことへの怖さが、じわじわと溶かされていった。
ただ側にいてその無防備な顔を見れば、不思議と心が安らいでいく。その肌に触れるだけで、何故だか己が満たされる。
俺の中でことねは、やはり光として俺を導いていく存在なのだろうか。失いたくはない光……だが、それはひいろも同じ。いつの間にか大きくなりすぎた想いを押さえ込み、前を行く家康の背中を眼で追う。