第20章 動く2
「信長様、誠にお待たせしてしまい申し訳けごぜいません。ましてや、いろは屋の関わりごとにことね様を巻き込んでしまい、なんとお詫び申し上げたらよいものか……」
そう言うと吉右衛門は庭に座り、敷かれている玉砂利に顔を擦り付ける程に頭を下げる。供の者も皆それに続いて平伏す。そしてなおも言葉を続けようとする吉右衛門を遮るように、御館様が口を開いた。
「吉右衛門、無駄に時を使うな。知らぬとはいえ、きっかけを与えたのはことねの方だ。俺の持ちものが粗相をした。あれはいつも思いものよらぬことをして、俺を楽しませるからな」
「……さすが信長様。益々頭が上がりませぬ」
「そのような戯れ言は仕舞いにしろ。いい加減そちらの品を見せねば、しびれを切らした秀吉あたりが噛みつくぞ」
「その通りです、信長様!こんな時に献上品など何の意味があるのですか。吉右衛門も詫びなど後にし、一刻も早く二人を探し出さなくては!ひいろは…ひいろは、斬られているんだぞ!」
御館様の言葉を受け勢いよく秀吉が立ち上がる。政宗や家康も同じ思いなのだろ、今にも飛び出しそうに片膝を立て、御館様の言葉を待っている。