第20章 動く2
日のあるうちに安土の土を踏むと、急ぎ城門をくぐる。城内はいつもと変わらず、それぞれが決まった仕事をこなしており、ことねが拐かされた事など微塵も感じることはなかった。
声を掛けてくる者の様子も変わらず、いつものように返事を返す。状況を飲み込みながら天守へ向け歩みを進めると、また声が掛かる。
「おかえりなさいませ、光秀様」
「ほう、お前が出迎えとはな、三成」
「御案内するためにお待ちしておりました」
微笑みながら話す三成の瞳は、いつもの柔らかい表情の中に一瞬鋭い光を放って見せた。やはり、ことねも拐かされたことに間違いはないのだろ。
「案内だと?」
「はい。これから献上品が運ばれてきますので、天守ではなく奥座敷にて皆様お集まりです」
「こんな時に献上品とは、余程大事な品なのだろうな」
「はい、いろは屋から珍しいものが届くそうです」
「そうか」
「はい」
互いに目を合わせ、頷き歩きだす。人払いがしてあるらしく、そこからは誰にも会うことはなかった。歩きながら状況を話す為に三成が寄越されたのだろう。それほど時が惜しいということなのか。