第18章 【番外編】いろは屋~その3~
ここは花街の、とある店の二階。客の依頼を受け、ひいろが遊女の絵を描いていた。
座敷の中では鮮やかな屏風の前で、艶やかな姿の遊女が妖艶な笑みを浮かべていた。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、ひいろが筆を置く。
「終わったのかい?」
「はい」
遊女の声に小さく答え、描き上げた絵を見えるよう置き直す。
「相変わらず、いい腕だねぇ」
「姉様が美しいから」
「ふふふっ、かわいい娘だねぇ」
簡単に筆類を片付け、ひいろが縛っていた髪をほどく。はらはらと黒髪が肩へと落ちると、張り詰めていた空気もほろほろとほどけていく。その姿を見ながら遊女が小さく笑い、側に用意された杯に酒を注ぎ一気にのみ干した。
「で、思いを伝えられたんだろ?」
「……はい」
「じゃぁ、何でそんな顔してるんだい」
「そんな顔?」
「何か抱えてる顔だよ」
「えっ……」
「いつもみたいに吐き出しておいき。ここは花街、欲もうさもみんな吐き出していく所。あたしがみんな飲み込んでやるからさ」
そう言って笑うと遊女は、今度はゆっくりと酒を呑んだ。少し間を置き、ぽつりぽつりとひいろが話しはじめる。