第1章 僕と勇利、時々『デコ』
『プライドよりも夢の手助け』
外は茹だるような酷暑にもかかわらず、その日開催された子供スケート教室には、沢山の参加者が詰めかけていた。
純は、主に初心者や初級者にスケートの楽しさを教え、そして特別講師として招かれた勇利は、未来のアスリート候補生を対象とした指導を行っていた。
「上手に出来たね!じゃあ、今度はもう1回転増やしてみよう…あれ?スピンするのに上向いてちゃダメだよ~。顎を引いて、僕を見ながら回ってごらん」
「…ボク?」
腰を屈めながら指導をする勇利の言葉に、参加者の男の子が、自分を指差しながら戸惑いがちに返してきた。
勇利本人は自覚がないが、子供達にとってフィギュアスケーター勝生勇利は雲の上にも等しい存在なので、緊張しまくっていたのだ。
「ううん、違う違う。僕の方」
「え、ボク…えっと、えっと…」
益々テンパってしまっている男の子に、上手く掛ける言葉を探せず勇利が内心で戸惑っていると、その時背後にゾクリとした寒気を覚えた。
僅かに勇利が首を動かした先で、口元は微笑んでいるが目が笑っていない純の刺すような視線とぶつかる。
(大人の都合で子供の夢壊すな、ていつも言うてるやろ?)
腕組みの姿勢で凄んできた純に、勇利は顔を引きつらせながら元の姿勢に戻すと、
「えっと、ゆ…『勇利くん』を見ながら回ってごらん?」
「わかった!勇利くん!」
漸く理解した男の子が、嬉々として勇利に視線を合わせながらスピンを回り始めたのを見て、勇利は様々な意味のこもったため息を1つ吐いた。
【後日談】
ユリオ「それって、カツ丼が自分指して『こっちヲ見てスピン回っテ』って言や良かったんじゃねーの?(日本語のテキストを読みながら)」
勇利・純「あ」