第4章 この胸ん中モヤモヤしてるの、お前が関係してるらしい
「最近、アイツよく来てるな。」
そう言った森山の視線の先には浅倉に楽しそうに声を掛けている男子生徒の姿があった。浅倉はそれにいつもの調子で答えているが、コートの中にいると何を話してるのか全く聞こえねえ。二人がどんな話をしてるのか気になり、気が付けば視線が二人の方へと向いた。
そんな日が何日と続けば、モヤモヤとした得体の知れない感情が俺の中に居座った。主将の俺が一番部活に集中出来てねえじゃねえか…!
「笠松先輩。」
「うお!?」
不意に背後から声を掛けられ、みっともない声を上げちまった。
「すみません。急に声を掛けて。」
そう言うと、俺から少し離れた浅倉は再び俺の名前を呼んだ。
「…なんでそんな離れんだよ?」
「これ位の距離の方がいいかと思ったので。」
確かに、浅倉に慣れたといえば慣れたが、それは他の女子と比べてってだけの話で、近付かれれば変に緊張するし、距離が開いてるに越した事は無いが、浅倉から意図的に距離を取られると、なんつうか…傷付くっつーか…なんか、腑に落ちねえ。黄瀬や最近一緒にいる男子生徒とは隣同士、肩の触れ合うような距離で楽しそうに…いや、これは男側が一方的に楽しそうにしてるだけだな。まあ、兎に角、他の奴とは普通にしてんのに、俺だけこういう対応なのかと思うとモヤモヤするっつうか…上手く言葉が見つかんねえ。
「…で、何だ?」
「今日はもう帰ります。」
「は?何でだよ?」
「迎えが来たので。」
そう言って浅倉が指さした方向にいたのは、最近よくバスケ部に来る男子生徒だった。まさか森山が言ってたこないだの告白してきた男子ってのがアイツで、迎えに来たってのは、その、つまり…。
「それじゃあ今日はお先に失礼します。お疲れ様でした。」
言葉を失い、何も言えずにいる俺に頭を下げると、すたすたとソイツの待つ方へと歩いて行く浅倉の背中をただ見つめる事しか出来なかった。漠然としたモヤモヤは確実に実態と化していった。
「笠松、どうかしたか?」
この胸ん中のモヤモヤしてるの、浅倉が関係してるらしい。そう、思わずにはいられなかった。