第3章 お前がいねえと調子でねーとか、俺どっかおかしいのか?
部活が終わった後も今日の練習内容に納得がいかず、一人居残り練をしていたが、部活中同様、納得のいく成果は得られなかった。それにイラつき乍練習を続けていると体育館の扉が開いた。
「あ…良かった。」
安堵の表情を浮かべ、体育館の入口に立っていたのは浅倉だった。
「は?何でまだ学校にいんだよ?」
「色々やる事あって残ってたらこんな時間になってしまって…。体育館の明かりがついてたので、誰かいるのかなって思って、来ちゃいました。残ってるのが涼太じゃなくて笠松先輩で良かった。」
特別な意味なんて何も無いであろうその言葉に、何故か喜びを感じずにはいられなかった。湧き上がってくる理解し難い感情に首を傾げた。…なんだこれ?
「もう暗えし、…お、送ってく。」
女子相手に黄瀬や森山のような事を言えるようになった自分の進歩に驚いた。
「笠松先輩まだ練習するつもりだったんじゃないですか?私の事はお気になさらず。」
「…そう言うワケにはいかねえだろうが。」
「じゃあ…少しだけ練習見させてもらっていいですか?」
「別に構わねえけど…。」
「私、笠松先輩のバスケ好きなんです。」
「は…っ!?」
相変わらず読み取りずらい表情の浅倉は、焦る俺と対照的でいつも通りだった。俺のバスケが好きって言っただけで何こんなに慌ててんだクソ…っ!邪心を振り払うように、再びコートへと向かうと、先程までの不調が嘘のように消えていた。…いや、寧ろその逆。異様なまでにボールが手に馴染んだ。ゴール目掛けて放ったボールも、ゴールに吸い寄せられるように綺麗な放物線を描いてゴールへ入った。
コートの外にいる浅倉を見ると、微かに笑みを浮かべ、転がったボールを目で追っていた。その表情を見て、胸が激しく脈を打った。
「…帰んぞ。…送ってく。着替えてくるから待ってろ。」
湧き上がってくる不思議な感情に戸惑い乍、部室へと向かった。妙に頭に焼き付いた浅倉の笑み。それをかき消すように頭を横に振った。