第30章 その存在は神に似て
組合の2人がパトカーに乗せられるのを、近くの林からあたしたちは見ていた。
「……大丈夫。ナオちゃんたち、なんとか列車に乗れたみたい」
「良かッた……」
麓まで伸ばした血液に視覚を移行して、あたしはそれを確認する。
そうを伝えると、谷崎はホッと肩の力を抜いた。
「詞織、お前はこれからどうする?」
「あたしは太宰さんのところに行く。社長からも、太宰さんを手伝うように言われてるし」
空を行けば、ナオちゃんたちに追いつくのだってわけない。
「そうか。だが、大丈夫か? 少し顔色が悪いぞ。貧血じゃないか?」
「平気。これくらい何でもない」
言いながら、あたしは立ち上がった。
少しクラッとしたけど、あたしはそれを面に出さないように気を引きしめる。
あたしは取り出したナイフで背中を傷つけ、紅い羽を伸ばした。
そこでふと気がつき、ポケットからチョコレートを1つ取り出す。
実は、乱歩さんに内緒でこっそり取っておいたのだ。
「谷崎」
名前を呼んで、あたしはチョコレートを彼に向かって投げる。
緩い放物線を描いて、チョコレートは谷崎の手の中へ落ちた。
「これは?」
尋ねられ、あたしは「お礼」と短く答える。
「アンタのおかげで、大切なことに気づけたから」
目を瞬かせる谷崎にそう言い残して、あたしは地面を蹴り、澄んだ空へと羽ばたいた。